皆さんこんにちは。
令和6年8月の建築家コラムをお届けします。 毎日猛暑が続きますが、皆様におかれましては熱中症など体調には十分気を付けてお過ごしください。 さて、建築家コラム42回目のゲストは「三井 嶺(みつい れい)」さんです。 三井さんは東京大学工学部建築学科を卒業後、同大学院では日本建築史を専攻し茶室を研究されていました。2008年から2015年まで坂茂建築設計に在籍。国内外のプロジェクトに携われた後、2015年に三井嶺建築設計事務所を設立されました。 2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)では会場のポップアップステージ(西)の設計者に選ばれている期待の若手建築家です。 今回、三井さんからどんな「床」にまつわるお話が聞けるのかとても楽しみです。 それでは三井さんのコラムをお楽しみください。
三井嶺(みつい れい)/建築家
1983年愛知県生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、同大学院(日本建築史専攻)で茶室を研究。修士課程修了後、坂茂建築設計を経て、2015年三井嶺建築設計事務所を設立。茶室をはじめとする日本建築の建築理論を探求し、設計活動を主軸に自身の建築哲学を実践している。「骨と装飾」「茶室に見る”無”と透明性」「イメージの媒介としての建築」を創作のキーワードとする。主な作品に「日本橋旧テーラー堀屋改修」、「柳小路南角」、「森の図書館」、茶室「清風庵」など。受賞歴にUnder 35 Architects Exhibition 2017最優秀賞、住宅建築賞2021など。 山の中に建つ別荘を設計した。 山の中に建つべきものを考えたときに、できる限り自然に近い状況が理想的で、いっそ建物はなくても良いかなと思った。 もちろん現実には建物をつくらなくてはならないので、建物の存在を意識になじませて、できるかぎり消すことにした。 まずは屋根。試しに敷地のあちこちにタープを張ってみたが、緩い勾配では軽やかなタープでさえも鬱陶しく思えた。そこで、まっすぐな目線のときには見えなくなるほどの急勾配にして、雨は凌げるけれど、視覚として意識されない角度にしてみた。そこに屋根があることは事実として認識しているが、ある視点では視界から消えてしまうような屋根にした。 次は床。
床も極力つくらずに済ませたいが、敷地は急ではないが緩やかでもない斜面で、どう座っても斜面そのままではどこか居心地が悪い。少しの部分だけでも平らにしたくなる。 イメージとしては竪穴式住居のように地面を掘って均しただけのような平らな地面がいいだろう。 部屋全体を平らにしてしまっては、床の存在が強くなりすぎてしまう。よくよく考えると、平らでないと具合の悪い部分は家具を置く場所くらいのもので、それほど広くなくても大丈夫。そこで、敷地の勾配をそのまま内部に引き込んだ地面のようなスロープを設け、その真ん中を平らに掘り込んで、かろうじてリビングと呼べるであろう居場所をつくることにした。 さらに居心地のよい場所にするには火が必要だと考えた。暖を取るためだけでなく、安心感を得るための火。縄文時代にみられる原始的なスタイルに倣って、かまどのような穴をスロープの床下に掘りこんで、火を燃やせる場所をつくった。必要十分なだけの平らな面と火があれば、それだけで居場所になる。結局は野でテントを張って火を焚くときと同じだ。
人間は、快適さを求めてあれこれと作ってきた。
床をつくることは、建築におけるごく原初的な要素の一つで、屋根を掛けることと同じくらいか、それ以上に原初的かもしれない。それゆえに、つい当たり前に床を作ってしまいがちだ。 建築をつくるときの態度として、床や屋根のみならず骨組みとなる構造から常識を問い直し、原初に立ち戻って考えてみることにしている。盲目的に受け入れてしまっている常識にこそ新しさが潜んでいる。 (写真:小野田陽一) 三井さん、ありがとうございました。
建築をつくるときに、三井さんが原初に立ち戻って構造から深く考えられているということが伝わってきました。 これからもますますのご活躍をお祈りしております。どうもありがとうございました。 |
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