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建築家コラム 第34回ゲスト 「奈良 祐希」 2023年4月1日 一覧へ戻る
皆さんこんにちは。

令和5年も4月になりました。
花冷えの続くこのごろですが、皆さまお障りなくお過ごしでしょうか。

さて、建築家コラム34回目のゲストは「奈良 祐希(なら ゆうき)」さんです。

奈良さんは金沢市で350年余の歴史を誇る茶陶の名窯 「大樋焼」の家系に生まれました。
高校生の時に建築に興味を持ち、東京藝術大学美術学部建築学科を卒業後、同大大学院の時に休学し、多治見市陶磁器意匠研究所で2年間陶芸を学びました。大学院卒業後は北川原温建築都市研究所での勤務を経て独立し、現在は陶芸家と建築家の二刀流で多岐の分野でご活躍されている、今注目の若手建築家です。

今回、奈良さんからどんな「床」にまつわるお話が聞けるのかとても楽しみです。
それでは奈良さんのコラムをお楽しみください。
 ■建築家コラム 第34回ゲスト 「奈良 祐希」 拡大写真 

奈良祐希 Yuki NARA

建築家・陶芸家
株式会社EARTHEN主宰
1989 石川県金沢市生まれ
2013 東京藝術大学美術学部建築科卒業
2016 多治見市陶磁器意匠研究所首席修了
2017 東京藝術大学大学院美術研究科建築専攻首席卒業
2018-2020 株式会社北川原温建築都市研究所勤務
陶芸分野では、Art Basel / Design Miami(スイス)、TEFAF(オランダ)、SOFA(アメリカ)などに招待出品。主な受賞歴に世界工芸トリエンナーレ審査員特別賞(2017)、Penクリエイターアワード(2021)、金沢市工芸展世界工芸都市宣言記念賞(2023)。建築と陶芸の融合を目指した代表作「Bone Flower」は金沢21世紀美術館に史上最年少で永久収蔵されている。
建築分野では、主な作品に「五行茶室」(2018/金沢21世紀美術館、台南市美術館)、「Node」(2023/企業新社屋)、「Cave」(2023/リノベーション)。
金沢と東京の二拠点を中心に陶芸と建築、二つの領域をまたいだ創作活動を行っている。



 ■建築家コラム 第34回ゲスト 「奈良 祐希」 拡大写真 

奈良祐希「Frozen Flowers」2022年
「コレクション展1 うつわ」(2022年、金沢21世紀美術館)展示風景
撮影:木奥惠三


建築における床の意味と意匠について

最近、「アーシング」という言葉に出会った。

英語にすると「Earthing」。
靴もソックスも脱ぎ捨てて裸足で大地を踏む、「地球」のエネルギーを感じる瞬間のこと。僕はよくサーフィンをするのでその仲間達との会話で偶然聞いた言葉だった。
なるほどたしかにサーフィン時は基本裸足だ。自然のダイナミズムに直接向き合い触れ合う時間。別名では「グラウンディング=Grounding」とも言うらしい。

土や草、水の元素が足の裏全ての神経を刺激していく。
そして細かな感触が驚くほどのスピードで脳に伝わり身体全体を刺激していく。

いつからだろう、自然をより身近に感じる瞬間が無くなってしまったのは。

僕たちの生活に欠かせない「靴」。ファッションの一部でもあり外出時は必ず身につける必需品である。さらに色々調べてみると、靴文化の起源は江戸時代まで遡るらしい。そんな世紀の発明から少しずつ大地と人間は距離を置き始めた。そして現代社会の急速な発展の中で、土はコンクリートに埋もれ、とうとう姿を見せなくなってしまったのである。

陶芸も生業にしている。
制作過程の中で、「土を揉む」という行為が一番重要だと思っている。「かたち」を成形する工程よりも。心を込めて、魂を土に吹き込む。土の中にほんの少しの気泡でもあれば焼成時に爆発する。そんな可能性を少しでも減らすために「土を揉む」。
平常時は両手で「菊練り」をするのだが、土の量が多い場合、足で土を揉む。
いや、揉むというより「踏む」という表現が正しいかもしれない。

とても面倒くさそうなその過程において、その瞬間、大地と繋がっているような不思議な感覚になる。

冷たい土が足裏から伝わる体温の熱を帯びて徐々に温まっていく。
固い土の塊が収縮や膨張を幾度となく繰り返すことで柔らかくなっていく。

精神の全てを土に織り込み、身体の全てを土に投影する。
気が付けば、その有機体に愛着が湧いていて、なでてみたくなったりもする。

そこにある土を通り越して、その下の奥深くに眠る大地や地球と身体を通して「会話」するその行為は僕に大きな気付きを与えてくれた。「床」は人間が唯一、大地と触れ合うことができるエレメントだということを。

最新プロジェクト「Node」では、様々な形質を持った「床」を設計した。
工芸的な手仕事による土の微粒子がそのまま現しになったようなコンクリート土間、極限にまで洗い出しされたアスファルト、スケールアウトした飛石、踏むと沈み込む露地、軋む音をあえて取り入れたウッドデッキ、パイルが2倍の長さのオフィスカーペット。

最低限の機能性を担保しながらも、従来の材料素性を変質させるスタディを繰り返した。
靴を脱ぎ捨てて裸足で歩きたくなる、そんな「床」を目指して。
 ■建築家コラム 第34回ゲスト 「奈良 祐希」 拡大写真 

<Node>(2023/株式会社家元 新社屋)
 ■建築家コラム 第34回ゲスト 「奈良 祐希」 拡大写真 

<Node>(2023/株式会社家元 新社屋)
 ■建築家コラム 第34回ゲスト 「奈良 祐希」 拡大写真 

<Node>(2023/株式会社家元 新社屋)※西畠清順(そら植物園)との協業
 ■建築家コラム 第34回ゲスト 「奈良 祐希」 拡大写真 

<Node>(2023/株式会社家元 新社屋)※西畠清順(そら植物園)との協業
 ■建築家コラム 第34回ゲスト 「奈良 祐希」 拡大写真 

<Node>(2023/株式会社家元 新社屋)
 ■建築家コラム 第34回ゲスト 「奈良 祐希」 拡大写真 

<Node>(2023/株式会社家元 新社屋)


奈良さん、ありがとうございました。
陶芸の「土を揉む」行為に大変興味を覚えました。
土の中の気泡を抜くために「足で土を揉む」行為は、足で土と対話している感覚のような気がします。私達が普段の生活では気づき得ない、大地を感じられているのではないでしょうか。
奈良さんの陶芸から得ている感性が、建築にどのように反映されていくか非常に楽しみです。

これからもますますのご活躍をお祈りしております。どうもありがとうございました。
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