IOC STAFF ブログ
建築家コラム 第14回ゲスト 「黒川 智之」 2019年12月2日 一覧へ戻る
こんにちは。
早いもので今年も余すところ1か月足らずで新年を迎える季節となりました。
みなさま、いかがお過ごしでしょうか?

さて、今回の建築家コラムのゲストは「黒川智之(くろかわともゆき)」さんです。
久々の男性建築家の登場ですね。
黒川さんからはどのような床に関するお話が聞けるのか楽しみです。

それでは黒川さんのコラムをお楽しみください。



 ■建築家コラム 第14回ゲスト 「黒川 智之」 拡大写真 

黒川 智之
建築家。黒川智之建築設計事務所代表。

1977年 神奈川県生まれ。東京工業大学卒業、同大学大学院修了後、竹中工務店・Herzog & de Meuron(文化庁新進芸術家海外派遣員)・隈研吾建築都市設計事務所を経て、2012年黒川智之建築設計事務所を設立。2018年より日瑞建築文化協会理事を務める。

主な作品に、「学園前の住宅」「北千束の集合住宅」「駒岡げんきっず保育園」など。

主な受賞に、2018年 神奈川建築コンクール入賞、2019年 愛川町ホテルデザインコンペ最優秀賞など。











建築における床の意味と意匠について



建築を部位に分け、その在り方を一つ一つ議論することで設計を進める方法を採用することがある。プロジェクトによってはある部位を他の部位に従属させることもあるが、基本的には各々の部位に自律した成り立ちを持たせて考えるようにしている。そうしたプロセスの中で、「床」は非常に大きな役割を果たす。

今年竣工した「大岡山の集合住宅」は、間口が狭く奥行の長い敷地に建つ集合住宅である。二つの住戸ボリュームが共用廊下を挟んで結ばれたコの字状のユニットを二つかみ合わせ、四つの住戸ボリュームが敷地に沿って千鳥状に連なる構成としている。
この構成の骨格は、窓先空地に対する解決として、細長い敷地に対して奥まで光と風を呼び込む方法として、居住性が高く間口の大きい住戸を実現する方法として、前面道路・奥の大学側といった周辺環境への開き方に対する回答としてなど、外在的要因に反応した帰結として形成されたものである。そうして導かれた構成に対し、大岡山の集合住宅では細長い敷地を東西に貫く「通り土間」の考えが挿入されている。すなわち、共用廊下を挟む二住戸が、廊下と連続する土間空間を室内に設けることで、住戸と共用廊下が一体となって通り土間を形成するというものである。
通り土間は賑わいのある前面道路と背後にある大学の緑豊かな環境を結び、まちとの接点をつくり出す。床に焦点を当てることにより、周辺環境との関係によって規定された建築に、別の性格を浮上させたといえる。
 ■建築家コラム 第14回ゲスト 「黒川 智之」 拡大写真 




駒岡げんきっず保育園は、横浜の郊外住宅地に建つ定員60名の保育園である。敷地に余裕は無く、十分な広さの園庭を確保できない中、園庭と地続きとなる段状のテラスによって子どもの活動領域を立体的に拡張させることを考えた。
段状のテラスは、雛壇造成された周辺のまち並みと呼応する「地形的な床」という自律した成り立ちを持つ。一方で、屋根に関しては住宅スケールに分節された小さな屋根が寄せ集まり全体を覆うことを、壁に関しては耐力壁を市松状に配置して出隅を少なくすることで内外が反転しやすい囲いを形成することを指向している。
これら建築を構成する部位は、断片化しながらも互いが互いに影響し合うような関係性を持つため、ある特定の部位を強く秩序化することは、他の部位を無秩序化することにもなる。子どもの活動の場である床の動きを常に意識しつつ、部位間のバランスの中で全体が成立する状態を模索した。
 ■建築家コラム 第14回ゲスト 「黒川 智之」 拡大写真 

文章の主語と述語を入れ替えることで、同じ内容でも伝わり方に違いが生まれるように、一つの建築をつくり出す過程においても、建築を捉える主軸を流動的に変化させることで多くの発見が生まれる。その中でも、床を中心に据えて全体を俯瞰することは、身体的な感覚に引き寄せて他のエレメントの立ち位置を見直すきっかけを与えてくれる。
設計過程において幾度となく床に立ち返り、思考を眺め直し、上書きをしていく。その繰り返しが、建築をより濃密で豊かなものにしていくものと考えている。





黒川さん、ありがとうございました。
文章の主語・述語にたとえ建築を捉える主軸を流動的に変化させることで伝え方に違いが生まれる、という話はとても分かりやすいお話でした。
私たちが扱う内装建材は目に映る「面」を装飾するのが主な役割のため、建築の内面についてお話を伺う機会はめったにないので大変参考になりました。
それにしても建築における「床」の役割というのは普段感じている以上に大きなものだと改めて認識した次第です。

これからもますますのご活躍を祈念いたします。
戻る



ネット ショップネット ショップ