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建築家コラム 第47回ゲスト 「庵原 義隆」 2025年6月1日 一覧へ戻る
皆さんこんにちは。
令和7年6月の建築家コラムをお届けします。
木々の緑が色濃くなる時期となりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

さて、47回目のゲストは「庵原 義隆(いはら よしたか)」さんです。
庵原さんは、東京大学工学部建築学科在籍時に、「せんだいデザインリーグ卒業設計日本一決定戦」で日本一を受賞され、卒業後は伊東豊雄建築設計事務所に入所されました。
多摩美術大学図書館、みんなの森ぎふメディアコスモス、水戸市新市民会館等施設建築物などをご担当され、2016年にYY architectsを吉川真理子さんと共同設立されて、ご活躍されています。

今回、庵原さんからどんな「床」にまつわるお話が聞けるのかとても楽しみです。
それでは庵原さんのコラムをお楽しみください。

YY architects HP
https://yyarchitects.jp/
 ■建築家コラム 第47回ゲスト 「庵原 義隆」 拡大写真 

庵原 義隆 (いはら よしたか)
1979 東京都生まれ
2003 東京大学工学部建築学科 卒業
せんだいデザインリーグ卒業設計日本一決定戦日本一受賞
2003-18 伊東豊雄建築設計事務所 勤務
2016-20 岐阜市立女子短期大学 非常勤講師
2016- YY architects 共同主宰
2022- 芝浦工業大学 非常勤講師

















床の境界を拡張する

 床と聞いて真っ先に思い浮かぶのは「柱は空間に場を与え、床は空間を規定する」という菊竹清訓さんの言葉である。そして、この言葉を知ったのは、前職である伊東豊雄建築設計事務所にいた時のことである。

 伊東事務所では、国内の公共施設や海外の超高層など、様々な物件の設計に関わることができたが、それ以上に刺激的だったのが、本づくりである。伊東さんは、自身の設計手法について振り返って書いたり、話したりすることはあまり多くはなかったが、私が在籍した15年の間で2回だけ、手法について考察し本にまとめる機会があり、その両方にプロジェクトメンバーとして参加することができた。(※1)
 本づくりの初期は、まだどのような本になっていくかも明確ではないので、様々なキーワードを用いて、事務所の竣工した建物と照らし合わせ、あれやこれやと思考をめぐらせる。流れ、秩序、スパイラル、自然、シンボル、不安定、アナ、切断、生成、アルゴリズム、不均質なグリッドなど、おおよそ一般的な建築を語るような言葉では無いキーワードが建物と結びつき、伊東事務所の建築の面白さを深く知る。特に「せんだいメディアテーク」は、チューブ状の柱と、アナの空いた床、ただそれだけの組み合わせであるが、そのことで生み出される空間は多様な解釈が可能で、どんなキーワードにもつながり、いつも話の中心となった。そんな折、とある打ち合わせの際に、せんだいメディアテークは「柱は空間に場を与え、床は空間を規定する」という言葉に大きな影響を受けている、と伊東さんがふとつぶやく。何十年も前の師匠の言葉が受け継がれ、他のどんな言葉よりもぴたりとせんだいメディアテークをあらわしていることに衝撃を受けた。

 それ以降、建築を見る際は、柱や床が空間に何を及ぼしているか、探すように見ている。特に、床がその上部に空間をつくり出すものだと理解すると、より多くのことが理解できるようになった。例えば、モダニズムの名作を見てみると、ミース・ファン・デル・ローエ設計によるファンズワース邸が、室内と軒下という内外を超えて、床で1つの空間をつくり出していることがよく分かる。

せんだいメディアテークでは正方形だった床のエッジである境界線のつくり方が、その後のプロジェクトでは変わっていく。私が担当した「多摩美術大学図書館(八王子キャンパス)」では、境界線がR形状に湾曲することで周辺との関係をつくり出し、「ぎふメディアコスモス」では、大きく設定した四角形の境界線がいくつかの円形でえぐり取られることで、内外の関係を緩やかにした。後者は、内外や屋根の境界が床とずれることも加わり、どこか日本的な建築のようにも感じられる。どちらのプロジェクトも、床の境界を工夫することが、新しい建築の可能性につながることを強く感じた。

自分の事務所を大学の同期吉川と共同で始めてからも、床の境界について考えている。「縁側窓の家」では、LDKや寝室といった主な居室を集めて1ルームとし、その周囲に座れる高さの出窓を並べた。床の語源を調べると、中国語で寝たり座ったりする台のこと、と書かれている。この住宅では、居室としての空間を規定する床の周りに、そこから少し高さの上がった床を並べて、床の境界を柔らかく拡張しているとも理解できる。中央の床から外壁を超えて身を乗り出し、周囲の床に座って建物の中・外を眺める体験は、物理的な広さ以上の広がりを感じさせた。
「こしかけ窓の集合住宅」では、この考え方を応用し、6階建ての集合住宅とした。与件から、1室20m2〜30m2の小さな1ルーム賃貸の集合となったが、外壁に並んだこしかけることができる床によって、周囲に見える都市の風景へと拡張された伸びやかな生活を導くことができたのではないかと考えている。
 ■建築家コラム 第47回ゲスト 「庵原 義隆」 拡大写真 

こんなことを考えながら、再びファンズワース邸を見てみると、室内を含んだ屋根のある床の脇に、高さの異なるもうひとつの床があることに気付く。ただのアプローチの一部だと思っていたこの床も、床の境界を拡張する床だと捉えると、周囲の木々との間に柔らかい関係をつくり出す役割を担っていることが見えてくる。建築はまだまだ奥が深く、設計は楽しいと思わされる。

※1.具体的には以下の2冊。
   ・「けんちく世界をめぐる10の冒険」(彰国社)2006年
   ・「TOYO ITO RECENT PROJECT」(A.D.A.EDITA Tokyo)2008年


庵原さん、ありがとうございました。

庵原さんのお話しで、床の境界が変わることで新たな空間と場が生まれること、床を寝たり座ったりする台と捉えることで、「こしかけ窓」のような周囲の都市に拡張されるような生活空間が生まれることが分かり、建築に対する床の可能性を感じ、建築を見る視点が広がりました。

これからもますますのご活躍をお祈りしております。どうもありがとうございました。
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