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皆さんこんにちは。
令和7年4月の建築家コラムをお届けします。 新年度になり、皆さまにおかれましても新たな気持ちで日々を迎えていらっしゃることと思います。今年度も引き続き建築家コラムをお楽しみください。 さて、46回目のゲストは「佐野 健太(さの けんた)」さんです。 佐野さんは早稲田大学を地理学でご卒業後、東京理科大学、横浜国立大学大学院で建築学を学ばれました。その後、伊東豊雄建築設計事務所に入所され、台中國家歌劇院(オペラハウス)などをご担当され、2015年に佐野健太建築設計事務所を設立されました。現在は、日本と台湾を中心にご活躍中です。 今回、佐野さんからどんな「床」にまつわるお話が聞けるのかとても楽しみです。 それでは佐野さんのコラムをお楽しみください。 佐野健太建築設計事務所HP http://www.kentasano.com/ ![]() 代表取締役 一級建築士(登録番号337944) 1974東京生まれ 1997早稲田大学(地理学)卒業 2002東京理科大学(建築学)卒業 2004横浜国立大学大学院修士課程(建築学)修了 2004- 伊東豊雄建築設計事務所勤務 2015佐野健太建築設計事務所設立 現在 東洋大学、ICSカレッジオブアーツにて非常勤講師 今回、あらためて床というものについて考えてみる。建築家だからといって毎日床のことを考えているわけではないのだ、おそらく。ただ、床・壁・天井といったとき、そこにはなんとなくヒエラルキーがあり、最上位にはやはり床がくるという不文律があるようにもおもえている。常に身体と触れている(たとえ靴や靴下を履いていたとしても)からだろうか。他にもいろいろな説明の仕方があるのかもしれない。経済原理に則れば、床に優位性があることに疑いはない。そこに何平方メートル床を確保できるか、いつも血眼になっているそのくせ、何立方メートルの空間が出現するかについては拍子抜けするくらい無頓着である。もし壁や天井を自由に歩き回れたら、あるいはモノを自由に置けた(磁石のようにピタリとくっついて)としたら、壁や天井にももっと不動産的な価値が生まれるのかもしれない。などと空想を巡らせていると、やがて思考は重力の問題へと辿り着く。我々は身の回りのモノ含め、ひとつの例外もなく今この瞬間地球の中心に向かって落下し続けている。と同時に、自転する地球にブンブン振り回され、遠心力を受けながらどうにか均衡を保ちつつ存在しているのだ。そして、そこには常に床が介在している。周りを見渡せば、机も椅子も靴も車も、そして私たち自身の身体さえも床があることを前提にデザインされていることに気付かされる。 最近私たちの事務所では、重力から解放されるための芸術ともいえる、バレエのための建築をデザインした。「東京のバレエハウス」という都内に建つバレエスタジオ兼住宅である。 ©Motoharu Yagi
スタジオは敷地から得られる最大面積を確保し、大きな跳躍にも十分な高さとして有効を4.2mに設定した。床は地面から切り離され、上下にそれぞれ小さなボリュームが積み重なる。下層はスタジオの付属機能とガレージ、上層は少人数での暮らしを想定したコンパクトな住宅である。ここでも床は、デザインを進めていくうえで中心的な役割を果たした。バレエ教室の主宰者でもある建築主からは最初に床が命と伝えられ、最適な硬さと滑りにくさを追求した。最終的には、幅板を井桁状に組んだ下地に合板を貼り、表面はリノニウムで仕上げている。踊るという目的に限らず、床は仕上げと同じくらい下地、ひいては構造が重要だ。これらの組み合わせによって独特の歩行感が生まれ、それはそのまま空間の質に直結する。表面がどんなに煌びやかでも、歩いて(あるいは飛び跳ねて)ポコポコしてしまうようでは一気に興醒めしてしまう。
©Motoharu Yagi
我々人類が0Gの世界で暮らす未来もそう遠くは無い。が、もうしばらくはGとうまく付き合っていくしかないのだろう。そんな世界の拠り所となる床をどう捉え、どうつくるか。まだまだ考えるべきことはたくさんありそうだ。
佐野さん、ありがとうございました。
バレエスタジオの建築と重力のお話し、非常に分かりやすかったです。 普段私たちが重力を意識することはほとんどありませんが、重力があることで床という概念が生まれ、身体が床と常に接することから床の素材と下地や構造が重要だと感じました。 これからもますますのご活躍をお祈りしております。どうもありがとうございました。 |
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