IOC STAFF ブログ
建築家コラム 第38回ゲスト 「服部 大祐」 2023年12月1日 一覧へ戻る
皆さんこんにちは。

令和5年も12月になり、今年も残すところあと1か月となりました。寒さも日毎に増しますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

さて、建築家コラム38回目のゲストは「服部 大祐(はっとり だいすけ)」さんです。

服部さんは慶應義塾大学環境情報学部卒業後、スイスのメンドリジオ建築アカデミーで学び、実務経験を積んだ後、2014年にSteven Schenk(スティーブン・シェンク)と、設計事務所Schenk Hattori(シェンクハットリ)をベルギーのアントワープで開設しました。
現在は京都とベルギーを拠点に活動されています。

今回、服部さんからどんな「床」にまつわるお話が聞けるのかとても楽しみです。
それでは服部さんのコラムをお楽しみください。
 ■建築家コラム 第38回ゲスト 「服部 大祐」 拡大写真 

服部大祐[Schenk Hattori]

1985年横浜生まれ
2008年慶應義塾大学環境情報学部卒業
2012年メンドリジオ建築アカデミー修士課程修了
2014年-Schenk Hattori(アントワープ・京都)共同主宰
日本建築学会作品選集新人賞、東京建築士会住宅建築賞、京都建築士会藤井厚二賞など受賞









生活のための床はきちっと水平であるべき。
当たり前にように思えることですが、果たして本当にそれが正しいのだろうか、と考えることがあります。

僕が幼少期を過ごした北京は当時、経済成長前夜といった感じで、だだっ広い草はらや、道路に掘られた巨大な穴や、大量に積まれた目的不明の木材なんかが其処彼処にあり、そういった場所が子供の遊び場になっていました。
そこでの4年間、僕は草はらでの虫取りに熱中していました。
僕が魅了されたことの一つに虫たちの立ち姿があります。立ち姿といっても、そもそも立っているのか座っているのか分かりませんが、ともかく草木に潜む彼らにとっては水平も垂直も、葉のオモテもウラも関係なく、どんな向きでも涼しい顔でその場に留まっています。重力に支配され、地べたに縛り付けられた僕には、その姿がとても優雅で自由に映ったよう記憶しています。
草はらの虫たちに限らず、平地に棲むあらゆる動物たちも、一つとしてその住処の床が真っ平らであることに固執するモノは居らず、僕たち人間は例外中の例外だと言えます。

では、実際に床が水平じゃ無かったら、と考えてみると、もちろん不具合の起きる場面も多々ありますが、必ずしも全てのシーンでネガティブな要因になるとは限らないように思います。
僕が以前住んでいたベルギーの古いアパートメントは物凄く床が傾いており、住み始めた当初は困惑しましたが、傾きに応じて椅子や机を配置すると、ゆったり本を読むリクライニングチェアのようになったり、前のめりにパソコン作業に打ち込むことが出来たりと、住みこなし甲斐のある家でした。
京都の町家を改修したウチのオフィスでは、建物中央の室の床を取り払い、土のままの凸凹した地面をミーティングスペースとしていますが、外の延長のような、あるいは中庭のようなラフな空間の効果か、なんとなく話し合いがカジュアルに進むような気がします。
 ■建築家コラム 第38回ゲスト 「服部 大祐」 拡大写真 

写真:Sh's ma
都市に目を向けてみても、地面に緩い傾斜が付いたポンピドゥーセンターの正面広場や、シエナの中央広場なんかは、いつも地べたに座って寛ぐ人々で溢れています。庭や公園ならまだしも、街ゆく人の視線に晒された、しっかりと舗装された都市の一部でそんな風景が展開している。冷静に考えるとなかなか凄いことだな、と思います。
 ■建築家コラム 第38回ゲスト 「服部 大祐」 拡大写真 

写真:服部大祐
現在、2025年の開催に向けて万博会場の休憩所を設計していますが、そこでは大きな凹凸状の地面と屋根が連続的に噛み合う、いわば地形がそのまま空間化したような建築を作ろうとしています。
 ■建築家コラム 第38回ゲスト 「服部 大祐」 拡大写真 

写真:Schenk Hattori 
地盤の悪い人工島に建てる上での条件として、建物の重量と同等の土を場外へ捨てないといけないという縛りがあり、せっかく土を運んできて作った島なのに、また土を廃棄するというのが、なんとも無駄な行為に思え、ならばその土の捨て方を設計することで必然的に形が決定されるような建築を作ってみてはどうか、と考えました。

具体的には、土を廃棄する過程で凹凸状の造成を行い、その地形を型枠にして屋根を成形します。地形を転写した形状の屋根を持ち上げてぐるっと回すと、地面の凹凸と屋根の凹凸が噛み合い、間に空間が生まれます。
 ■建築家コラム 第38回ゲスト 「服部 大祐」 拡大写真 

写真:Schenk Hattori 
新しい作り方で、どこかアルカイックな空間を獲得する、過去から未来までを繋ぐような建築を目指したいと思っています。
こうした非水平への興味や試みは、少し大袈裟に言うとすると、真っ平らな床の上に住まうことで人間が失ってしまった野生を取り戻さんとする、僕なりの欲求の表れなのかもしれません。





服部さん、ありがとうございました。

建築においては床が水平であることが当たり前なので、自然がそうでないことを、普段我々はほとんど意識していないのかもしれません。

これからもますますのご活躍をお祈りしております。どうもありがとうございました。
戻る



ネット ショップネット ショップ