![]() |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
皆さんこんにちは。
令和5年も6月にはいり、青葉若葉が美しい時期となりました。 まもなく梅雨に入ることが予想されますが、皆さまにおかれましては体調を崩されないようお気をつけください。 さて、建築家コラム35回目のゲストは「岡 由雨子(おか ゆうこ)」さんです。 岡さんはフランスのパリで生まれ、鎌倉で育った後、パリで室内建築を学び、フランス室内建築士評議会の認定を受けて帰国されました。日本では磯崎新アトリエに5年余り勤務され、2009年に独立されました。現在は横浜 馬車道の歴史的建造物の地下にオフィスを置かれて活動されています。 今回、岡さんからどんな「床」にまつわるお話が聞けるのかとても楽しみです。 それでは岡さんのコラムをお楽しみください。 ![]() 1979年フランス生まれ。鎌倉育ち。 2004年 Academie Charpentier Paris, FRANCE アカデミー・シャルパンティエ 室内建築/デザイン修士課程修了。 2004-2009年 磯崎新アトリエ。 2009年- 岡由雨子建築ディザイン株式会社 主な受賞に、 ・グッドデザイン賞2012(にしはらのながや) ・A' Design Award Winner silver 2017 (Appartement Montparnasse) /Italy ・German Design Award Winner 2018 (Appartement Montparnasse)/German ・第25回函館市都市景観賞 建築物部門 2022(ガーデニア松陰W) 「建築における床の意味と意匠」
Lʼespace et lʼattitude espaceは「空間」。attitudeは「姿勢、態度」と訳されるフランス語で、⼈が対象に向き合う時の状態と捉えて良いのだと思います。この⼆語は私がフランスで建築の勉強をしていた頃卒業論⽂に設定したテーマであり、以来私を捉え続けている⾔葉です。 空間はひとの五感により知覚され、その⾝体に作⽤しますが、「床」は具体的にどのように⾝体に作⽤しうるのでしょうか。 先⽇スカンジナビア地⽅を訪れた時のことです。 直前に⾶⾏機を予約したため、直⾏便が取れず20時間ちかく⾶⾏機を乗り継いで、くたくたに疲れた⾝体を引きずりコペンハーゲンのKøbenhavns Lufthavn, Kastrup空港に降り⽴ちました。 外気で冷えたブリッジを渡り終え、ようやく確固とした地⾯に⾜をつけほっとしながら進むと、⽬の前に細⽬に割り付けられた⾚み⾊の天然⽊床が広がっているのです。 滑らかな⽊肌で⾜あたりも優しく、カリンでしょうか。 ⼀気に⾝体の疲れが洗い流されていくようでした。 ここを設計した⼈は、きっと旅⼈たちがここに降り⽴つ時のことを的確に予測し、この空間に固有の⾝体への働きかけを仕組んだに違いありません。 旅⼈はまず五感から得る情報の⼤部分を占める視覚から、床に張られている天然⽊の情報を読み取り、居⼼地の良いリビングにいるような温かみを体験します。次に情報を得るのは、⽿からです。⾰靴の⾜⾳も硬く反響することはなく、⾜元の柔らかさとなめらかさを読み取ります。そしてその空間の温熱環境を肌に感じます。 これらを瞬時に五感を通して知覚したのち、脳がようやくその場所のもつ意味を考え始めます。スカンジナビア地⽅のアクセス拠点となり利⽤者も相当数の国際的なハブ空港。そこで天然⽊を床に贅沢に使うこの国の⼈々の⼼の温かみや豊かさに気づくのです。 この空港ターミナルを設計したのはデンマーク建築史のなかで最も重要な建築家のひとりで、デンマーク機能主義建築の先駆者、ヴィルヘルム・ラウリッツェン(1894-1984)が遺した彼の事務所でした。モダンでシンプル、⼼地の良い素晴しい空間でした。 時間的に、そして空間的にも離れ、出会ったことのない⼀⼰の建築家の意思が、時を超え、空間を通してそこに居合わせた⼈に伝わり、⼼を振るわせる。素敵な体験でした。 床が持つ⾝体への働きかけは、建築、空間要素のなかでもより直接的です。 建築空間がないところでも地⾯=床だけは存在し、重⼒のもと、私たちはいつもその床と直接的に接しています。そこから伝わる情報は、硬さ、柔らかさ、温かさ、冷たさ、なめらかさ、滑りやすさ、あるいは匂いといった視覚から以外の情報をも多く含んでいます。わたしはこれらの「⾒えない」作⽤にも⼀つ⼀つ丁寧に向き合い、⾝体にそっと働きかけていくそんな空間をつくり、そこに居合わせた⼈たちと静かに共振し、繋がりたいと願うのです。 <Appartement Montparnasse> 2016 東京都豊島区
26住戸の賃貸住宅 <Appartement Montparnasse> 住戸内アトリエ部分
フローリングは樹種、サイズ、仕上げ、いく通りもの試作を重ね、この場所のためだけのものを作りました。 ハンドスクレイプ加工をし、一枚一枚違う起伏をもっています
岡さん、ありがとうございました。
コペンハーゲンの空港で床に天然の木材が使われていることに驚きました。 大勢の乗降客が行き交う空港では、耐久性を考慮して石やタイルが選定されることが多いと思いますので、あえて天然の木材を採用した建築家の意図が強く伝わってきますね。 岡さんの<Appartement Montparnasse>の建築写真からも、建築の素材や空間が住まい手の感性に訴えかけてくるように感じられました。 これからもますますのご活躍をお祈りしております。どうもありがとうございました。 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|