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建築家コラム 第33回ゲスト 「長谷川 欣則」 2023年02月1日 一覧へ戻る
皆さんこんにちは。

令和5年も2月になりました。寒い日々が続きますが、皆様におかれましては風邪などひかれぬようお気をつけください。
建築家コラムもお陰様で6年目に入りましたが、今年も引き続きコラムをお楽しみください。

さて、建築家コラム33回目のゲストは「長谷川 欣則(はせがわ よしのり)」さんです。

長谷川さんは明治大学大学院を修了後、西沢立衛建築設計事務所、岡田公彦建築設計事務所を経て、2013年に株式会社UENOAarchitectsを設立されました。

今回、長谷川さんからどんな「床」にまつわるお話が聞けるのかとても楽しみです。
それでは長谷川さんのコラムをお楽しみください。
 ■建築家コラム 第33回ゲスト 「長谷川 欣則」 拡大写真 

長谷川欣則(Yoshinori Hasegawa) 

1980年 埼玉県生まれ
2006年 明治大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程修了
2006年 西沢立衛建築設計事務所
2008年 岡田公彦建築設計事務所
2013年 株式会社UENOAarchitects共同主宰
2020年 東京藝術大学coi拠点特任講師
2021年 明治大学兼任講師、関東学院大学非常勤講師

「第29回日本建築美術工芸協会賞/優秀賞」
「第47回日本建築士会連合会賞/奨励賞」
「日事連建築賞2020/奨励賞」
「DFA Design for Asia Awards 2020/GOLD Award」
「Under 35 Architects exhibition 2014/出展」
「PLOT展 2023/出展」
一級建築士



建築における床の意味と意匠について

 〜2つの小さな水平の記憶〜


【祖母の森の小さな水平】
小学生の頃、母親に連れて行かれ祖母の家によく通った。
祖母の家は山の中にあり、敷地の奥に歩いていくと森があった。家の中が飽きてくると一人でその森に入り、落葉や枝に覆われた足場の悪い斜面を歩き回った。しばらく歩いていると先祖のお墓があった場所だと思うが、ポツンと小さな水平の地面がありその場所は少し冷静になって周囲を観察することができたのを覚えている。

木々の隙間から差し込む光が直線を描いていることや、鳥の鳴き声のルールを見つけたりとその場所で日々違った発見をするのが楽しかった。人の気配が全くない森の中は子供には正直怖い場所であるはずなのだが、なぜか少し気持ち良い。この「怖さと喜びが共存した感覚」がとても好きだった。

しばらく時間が経ち小学校を卒業する頃に、この不思議な感覚を忘れることが大人になることなのではないかとなぜか急に大人びた気持ちになったのもこの場所だった。
 ■建築家コラム 第33回ゲスト 「長谷川 欣則」 拡大写真 


【岩場の小さな水平】
水平の意味を感じた体験として、ポルトガル旅行で訪れたアルヴァロ・シザのレサのスイミングプールのことも少し触れたい。
自然と一体となった建築として知られた施設ではあるが実際に行ってみるとコストの関係で施設として機能する最低限の場所をコンクリートで作ったということがよく分かる。ただそれを知ると自然と人工の関係性をより生き生きと感じた。
 ■建築家コラム 第33回ゲスト 「長谷川 欣則」 拡大写真 


岩や海の間にコンクリートで作られた小さな水平面があることで、荒々しい岩場で怪我をしないかと足下に向いていた意識が青い空に向かうことができた。それと同時に心の中の世界観がガラッと変わったのを覚えている。地平線が見える無限に広い自然の中で少しだけ許された人間の居場所の様にも感じ「縮尺に支配されない建築の尊い感覚」を抱いた。
 ■建築家コラム 第33回ゲスト 「長谷川 欣則」 拡大写真 


この2つの思い出のなかで感じた些細な感覚はなぜか設計をしている中でよく思い出す。
きっかけになった小さな水平が人間の手で作られていなかったらきっとそうにはならなかったと思う。

狙ってなのか偶然なのかはわからないが、そこには人間らしく冷静になれる場所があった。
設計の何につながるかはわからないが大切な感覚であるのは確かなので忘れたくないと思っているし忘れないために建築をやっている様な気もする。
設計する建築の床が成熟して、この小さな水平にわずかにでも近づけたら嬉しいものである。



長谷川さん、ありがとうございました。
建築は水平な場所を作っていく作業とも言えますので、山と海の水平な床で体験した感覚が時々思い出されるのかもしれませんね。

これからもますますのご活躍をお祈りしております。どうもありがとうございました。
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