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皆さんこんにちは。
令和4年も10月になり、爽やかな秋晴れが心地よい日々ですが、朝晩はめっきり冷え込むようにもなりました。皆さまにおかれましては、お風邪など召されませぬようくれぐれもご自愛ください。 さて、建築家コラム31回目のゲストは「平瀬 有人(ひらせ ゆうじん)」さんです。 平瀬さんは東京都出身、早稲田大学で建築を学び、2007年から1年間、スイスでの建築活動も経験されています。2007年に事務所を設立後、住宅から公共施設まで幅広いプロジェクトに携わってきました。また、2008年から佐賀大学の准教授として、後進の育成にあたりながら、精力的に設計活動をされています。 今回、平瀬さんからどんな「床」にまつわるお話が聞けるのかとても楽しみです。 それでは平瀬さんのコラムをお楽しみください。 ![]() 1976年東京都生まれ。1999年早稲田大学理工学部建築学科卒業。2001年早稲田大学大学院修士課程修了。古谷誠章研究室・ナスカ・早稲田大学助手を経て、2007年〜yHa architects。2007〜08年文化庁新進芸術家海外留学制度研修員(在スイス)。2008年〜佐賀大学准教授。博士(建築学)。 主な受賞に、日本建築学会作品選集新人賞2017・AACA日本建築美術工芸協会芦原義信賞2016・JIA日本建築家協会優秀建築選2015/2019・第4回日本建築設計学会賞2021・グッドデザイン賞2016/2020・SDレビュー2014入選/2019朝倉賞・御嶽山ビジターセンタープロポーザル最優秀賞2020ほか。 ■建築における床の意味と意匠 インデックス(指標)としての〈床〉 「自然」は人間にとって絶対的な他者であり、畏敬と憧れの存在である。建築は「知の結晶」としての人工物であり、建築の歴史は常に「自然」と如何に対峙するか、を考えてきた軌跡なのかもしれない。建築における〈床〉とは一般的には内部の各階を規定する要素であるが、そういう意味では隆起の激しい山岳地で苦心の末に建てられた山小屋内部の水平な〈床〉やその外部広場の〈床〉は、水平要素の無い自然環境のなかで対比的に顕れる根源的な建築エレメントの一つであると言えよう。 アダルベルト・リベラの設計と言われるイタリア南部のカプリ島に建つ〈マラパルテ邸〉(1938/図1)は、岩壁の一部を少しだけ水平に削りだしたような建築で、大自然のなかでの絶対水平面の〈床〉が印象的な建築である。モノの密度感が分からなくなるほどの非人間的スケールの大自然においては、人工的な建築が定規のような役割を果たすことで自然の肌理を観測でき、建築の存在によって自然の美しさがさらに増幅されるように感じる。すなわち圧倒的な大自然のなかにおいては、建築が自然のなかでのインデックス(指標)としての役割を果たすが、〈マラパルテ邸〉の絶対水平面はまさにそのような存在である。 ■図1 〈マラパルテ邸〉(1938)(c) Cornelli2010 CC BY-NC 2.0
少し前に設計した〈五ケ山クロス ベース〉(2019/図2)もまさに自然のなかでの指標的な意味を持つ建築の役割を考えた。スケールの大きなダム湖の景観や雄大な山並みのなかで、地上から4mの高さに絶対水平面としてのルーフテラスを設けている。ルーフテラスの〈床〉はウッドデッキとなっており、ダム湖への眺望を間近に感じられるような、ちょっと湖面に近づくために設えたヒューマンスケールなステージである。
■図2 〈五ケ山クロス ベース〉(2019)(c) Takeshi Yamagishi
近作の標高2,180mに建つ〈御嶽山ビジターセンター やまテラス王滝〉(2022/図3・4)は、敷地前に聳える御嶽山(標高3,067m)の雄大な山並みを背景に、斜め棟の長く伸びやかな屋根をかけることで山のスケールに呼応した風景をつくっている。ここでは山稜に置かれた〈床〉に加え、コンテクストから遊離した〈赤い屋根〉が慣習化された風景に新鮮さを創発するフレームとなり、異化作用を生み出しているのである。
■図3・4 〈御嶽山ビジターセンター やまテラス王滝〉(2022)(c)Takeshi Yamagishi
このように大自然のなかでの〈床〉の役割は、建築のインデックス性とも言いかえることができ、都市の「ミリュー」(表層を超えた〈社会的・文化的〉環境)を読み解いて物質化する建築行為のなかでのガイドラインとしての意味があると考えている。
平瀬さん、ありがとうございました。
普段、街のなかで生活をしていると気づかないことですが、「建築が自然のなかでのインデックス(指標)としての役割を果たす」というお話しが、非常に印象に残りました。 〈五ケ山クロス ベース〉は地上から4mの高さのルーフテラスに上がって視点が変わることで、周囲の山並みのパノラマ感が増し、ダム湖の水面がより多く視界に入り込むことで、自然との距離感が近づくような気がします。 また、〈御嶽山ビジターセンター やまテラス王滝〉は、赤い屋根が自然からのシェルターとなる山小屋を想起させ、自然と対峙する気持ちになるのかと思います。 これから紅葉の季節を迎えますので、ご興味をお持ちいただいた方は両施設に足をお運びいただき、床とともに自然を感じられてみてはいかがでしょうか。 これからもますますのご活躍をお祈りしております。どうもありがとうございました。 |
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