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長い梅雨があけ厳しい暑さが続いております。皆さま、どうか体調を崩さないようご自愛ください。
さて、12回目となる建築家コラムですが、今回はコラム史上初の女性建築家「山田紗子(やまだすずこ)」さんです。 建築における床の意味や意匠について女性ならではの視点からどんなお話が聞けるのか楽しみです。 それでは山田さんのコラムをお楽しみください。 ![]() 山田紗子建築設計事務所代表。明治大学兼任講師、ICSカレッジオブアーツ非常勤講師。 1984,東京都生まれ。 2007,慶應義塾大学環境情報学部卒業。 2007-2011藤本壮介建築設計事務所 勤務。 2012 東京藝術大学大学院 修了。 2013 横浜国立大学大学院Y-GSA 設計助手。 主な受賞に、SDレビュー2011 奨励賞、「Arts&Life:生きるための家」展コンペティション最優秀賞(2012)。 主な作品に、Pillar House(2012/東京都美術館)、Rope House (2013/せとうち国際芸術祭)、「新しい建築の楽しさ2015」展会場構成、daita2019(2019竣工)、h邸(2019竣工)など。 建築における床の意味や意匠について
床のような階段と階段のような床の話 そもそも階段は床なのでしょうか。人がその上を通行する、場合によっては座る、という使われ方においては、同じ仲間内であろう床と階段。しかし階段は、床よりはどちらかというと動線的な使われ方にウェイトを置かれることが多く、どうしても幅は最低限の数字が導き出され、上り下りしやすいように、手すりの高さは低すぎても高すぎてもだめでと安全面が先に議論されがちです。そうして出来たなんだか味気のない斜めの通路は登り降りするのがどうも面倒くさいだけのものになってしまいます。そこで一度マウスから手を離してペンを取り、床のような階段、あるいは、階段のような床、とノートに走り書きしてみてから、図面を(もしくは模型を)覗いてみると、その存在感はちょっと違ったものになっていくかもしれません。 床のような階段の話。 住宅の設計をしていると思い出す階段があります。幼い時によく遊んでいた祖母の家には、玄関のすぐ向かいの壁際に、どこの家にもあるような、2階へ登るU字型の階段がありました。その階段は、踏み板と蹴上板が柔らかなオリーブグリーンのカーペットで丁寧に包まれていました。長年その家の住人によって踏み込まれたカーペットは、ほどよくつぶれ、外の光を受けるとテラテラと反射して、どこかの森の奥の沼の水面を思い起こさせるものでした。その沼はダイニングテーブルの下から湧き出て、ソファとテレビの前に広がり、扉を潜り抜けてホールに出ると、突如隆起した小山のようにずるずると上に伸び広がって2階に続いていました。階段の吹き抜けの上の窓からは、切り取られた明るい空が見えました。子供が腰を下ろすとちょうど小さな身体がすっぽりとはまり、私はよくそこに座って壁に耳を当て、外の通りの音を聞いたり、おもちゃを持ち込んでせっせと部屋を作っていました。あまりに大人しい孫を心配した祖母が、どこにいるの?上にいるの、下にいるの?と声をかけると、そのどちらでもないので可笑しくて、クスクスと笑っていたのを思い出します。 階段のような床の話。
3年前にブラジルのサルヴァドールで、建築家リナボバルディが手がけた民衆文化伝承館という建物を見学しました。この建物は16世紀に建てられた建築物を彼女がリノベーションしたもので、赤いブリックの屋根に真っ白な壁が海岸の一角に建ち並び、建物の中は木構造の床が表しになった素朴な建物でした。展示室の中央にひときわ大きならせん階段が備え付けられていました。元々石で作られていた重い階段を取り払い、リナボバルディが木造で作り直したものです。一辺が4メートル程もあるその方形のらせん階段は、5本の大きな柱によって中央と四隅を支えられていて、その間にわずかな段差を保ちながらゆったりと、幅の広い踏み板がらせん状に積み重ねられているものでした。5本の柱も、ささらも、踏み板もすべてずっしりとした無垢の木で作られており、接合部は日本の木組みのように仕口が丁寧に加工されていました。その時ちょうど10人ほどの人がその階段を登ったり降りたり、または階段に腰掛けてくつろいでいました。もはや階段というよりは、それは宙に浮いた小さな床の連なりで、少しずつ幹から伸びる枝葉のように1階の床から伸び上がり、2階の床へとゆるやかに繋がっているのでした。重たい石の階段から軽やかな木の階段へ。ただの階段から小さな床の積層へ。3年経った今も地球の裏側から、サルヴァドールの海岸線にひっそりと佇むこの展示室の階段に思いを馳せています。 山田さん、どうもありがとうございました。 幼いころの山田さんとおばあさまの階段のお話は思わず微笑んでしまうエピソードですね。 床の様な階段の話と階段のような床の話を対比させ、これまでにない視点での楽しいお話でした。 これからもますますのご活躍をお祈りしております。 |
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