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建築家コラム 第11回ゲスト 「浜田 晶則」 2019年05月31日 一覧へ戻る
みなさま、今年もまもなく梅雨入りのニュースが聞こえる季節になりましたが、いかがお過ごしでしょうか?
屋久島では先日記録的豪雨により甚大な被害が発生しましたが、
環境が大きく変化するなか、どうかみなさまも被害に巻き込まれないよう普段からご注意ください。

さて、11回目となる建築家コラムの今回のゲストは「浜田 晶則(はまだあきのり)」さんです。

床についてこれまでとは違う角度からおもしろそうなお話が聞けそうです。

それでは浜田さんのコラムをお楽しみください。




 ■建築家コラム 第11回ゲスト 「浜田 晶則」 拡大写真 

浜田晶則

1984年富山県生まれ。
2010年首都大学東京卒業。
2012年東京大学大学院修士課程修了。
2012年Alex Knezoとstudio_01設立。
2014年浜田晶則建築設計事務所設立。
2014年- teamLab Architects Partner。
2014年-2016年日本大学非常勤講師。

主な著作に『シェアをデザインする: 変わるコミュニティ、ビジネス、クリエイションの現場』学芸出版社 (2013) 編著、『マテリアライジング・デコーディング 情報と物質とそのあいだ』millegraph (2014) 共著。

主な作品に『綾瀬の基板工場(2017)』、『Floating Flower Garden(2015)』、『Crystal Universe(2015)』。

http://aki-hamada.com/



建築における床の意味と意匠について



歩いているとき、うわの空で床につまづいてしまうことがよくある。床の凹凸、水滴や摩擦、注意力の度合いによって人と床との関係は変化するが、そのとき床の存在に意識的になる。視界に入っていても、床を踏む足と踏まれる床との関係のラインに変曲点が生じることによって、はじめてその存在が強く顕在化されるのである。
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©Gottingham
(AGC「鏡と天秤」でのLibraのインスタレーションビュー)





極めて摩擦力を減らした床の一つが氷の床だろう。僕がはじめてスケートリンクに行ったのは、小学生のときだった。福井県の芝政という施設だったことも記憶にある。借りた黒革のスケート靴に履き替え、膝を伸ばしてコツコツと歩いた。慣れていたスキーとは違った感覚で、自らの小さな身体をバランスさせてそこに立つことを試みていた。しばらく練習して慣れてくると、ゆっくり滑る大人たちをくぐり抜けるように、スケート選手になったかのように滑っていた。目をあけると、医務室のベッドで仰向けになっていた。


ラスベガス・サンズが運営するシンガポールのマリーナベイサンズの屋内にスケートリンクがあった。僕が訪れたとき、そこには一人の少女が親に見守られながら滑っていた。僕は、アートコレクティブであるチームラボの建築部門のパートナーとして、隣接するArt Science Museumの常設展の監理に来ていた。展示が無事オープンした後、スケートリンクのリニューアルをチームラボで担当することになり、デジタルでスケートリンクをアップデートすることを試みた。
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スケートは靴のブレードと床の摩擦力が極端に減らされることによって、速いスピードで移動が可能になる。そのように速く移動する人を見ることは楽しいし、速く移動する体験も楽しい。しかし空間には限りがある。面積に対してあまりに多くの人がスケートリンクにいると人にぶつかってしまうし、速く移動することもできず、楽しさは半減してしまう。

僕たちが提案した「Digital Light Canvas」という直径15mの光の円形リンクは、人が動かなくても、光が動くことによって自分が動いているかのような体験となる。例えるならビデオゲームのスクロールのような体験だ。通常は光の魚が泳いでいて、人を避けるように魚の群れの動きがリアルタイムに計算される作品になっている。
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©teamLab



ある時間になると、「Strokes of Life」という作品に変化する。人々がリンクに立つと、人々から書が生まれ、空間に描く書『空書』となってリンクに立体的に描かれていく。ある人の誕生日を祝ったり、プロポーズしたいときはプログラムが変化し、スマートフォンで入力した文字が『空書』として人のいる場所から描かれることで祝福される。
 ■建築家コラム 第11回ゲスト 「浜田 晶則」 拡大写真 

©teamLab
https://www.youtube.com/watch?v=RHmCcz7jAek



「滑る床」というある目的のためだけに機能的につくられたスケートリンクの床は、デジタルによってさまざまな意味に変容する「キャンバスとしての床」へアップデートされた。ある個人がそこに存在することを受容され、積極的に他者に感謝されるような仕組みが埋め込まれ、人や時に合わせて変容する環境こそが、未来の「公共的な場」になるのではないかと思う。例えば床につまづくことで他者の存在に気がつき、その存在を否定することなく感謝できるときのように。





浜田さん、楽しいコラムどうもありがとうございました。
スケートリンクの氷の床が話題に出るとは思ってもみませんでした。
さらにリンクをただ単に滑ったり滑っている人を見て楽しむだけではなく、
デジタルによって一つのキャンバスと見立ててアップデートアートに仕上げるとは、
さすが話題作りの仕掛け人、teamLabの本領発揮といった印象でした。
これからのご活躍も楽しみにしております。
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