皆さんこんにちは。
令和6年6月の建築家コラムをお届けします。 木々の緑が色濃くなり、また梅雨入りが気にかかる頃となりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。 さて、建築家コラム41回目のゲストは「湯浅 良介(ゆあさ りょうすけ)」さんです。 湯浅さんは、東京藝術大学大学院修士課程を修了後、内藤廣建築設計事務所での修行を経て、2019年よりOffice Yuasaを主宰されています。 今回、湯浅さんからどんな「床」にまつわるお話が聞けるのかとても楽しみです。 それでは湯浅さんのコラムをお楽しみください。 ※湯浅さんは7月5日(金)、港区立産業振興センター11階小ホールで開催される「床・意研究会第10回フォーラム」にも参加される予定です。ご興味のある方は下記のご案内をご確認のうえ、お申込みください。 https://www.iocjapan.biz/yukai/?DOC_NO=20240328094041&ACTION=DETAIL&PAGE=
湯浅良介 / 建築家
1982年東京都生まれ。東京藝術大学大学院修士課程修了。内藤廣建築設計事務所を経て、2019年よりOffice Yuasaを主宰。2024年から多摩美術大学准教授。 東京理科大学、武蔵野美術大学、明治大学非常勤講師。 主な作品に、「FLASH」、「となりはランデヴー」、「波」など。 主な著作に、『HOUSEPLAYING No.01 VIDEO』(OFFICE YUASA)、『PATH』(盆地Edition)など。 主な受賞歴に東京藝術大学吉田五十八修了制作賞受賞、東京建築コレクション内藤廣賞、第9回ap賞入賞、SDレビュー2023槇賞、住宅建築賞2024入賞など。 「今 この足下への 意識」
はじめまして、湯浅良介と申します。 ところで、みなさんは家にいる時靴下を履いていますか?僕は家に帰るとまず靴下を脱ぎます。楽な格好になりたい、というのももちろんありますが、足の裏で、家に帰ってきたということを感じたくて裸足になります。 人体の末端である足の裏には手と同じように神経が集まっています。人が手で多くのことを感じ取るように、足の裏からも本来多くのことを感じ取っています。ただ、猿と違って人間にとっての足は、手のように何かを掴んだり、握ったり、対象に対して働きかけることには不向きで、立ったり歩いたり、受けている重力に反応する、ある種受動的な存在です。働きかける手と、受け取る足が、それぞれに刺激を受容して情報を得ています。 重力に拮抗しながら足を使って水平方向に移動する人間は、それだから垂直方向への移動への憧れがあるのでしょう。高いところへ行きたい、空を飛びたい、宇宙へ行きたい、という欲求は、水平方向では得られない視点場を獲得したいという想いからきているのではないでしょうか。そしてそれは、約100年前の第二次産業革命と近代化による技術革新によって可能となっていきました。そして今、ロシア、アメリカ、中国、そして日本も、宇宙開発へ歩みを進め、人が見上げて愛でる対象だった月、地球にとって潮の満ち引きや生態系に影響を与えている月も、人が手を加える対象へと変化しようとしています。 人は手を使い技術を開発し進化させてきました。移動手段も機械化され足を使うことも減り、それに伴い足の感覚も鈍くなり、足元の地球への意識も薄まっていったこれまでの100年。今ではインターネットやバーチャル世界も進化して、意識は手からさらに頭へと昇っていきます。頭の中で、時間も空間も忘れ情報に晒された意識がそろそろ過敏症になってきた頃でしょうか。 それでもふと、頭から足に意識を下げていくと、そこにある床の冷たさや足触りが、意識を今ここへと連れ戻してくれるような気がします。 建築が人を地球上にいることを許容させてくれる場所、耐え忍ぶ場所、守ってくれる場所、他者と共にいることを可能とする場所ならば、その中で床というエレメントは、足裏の感覚を通して意識をその空間に繋ぎ止める役割を担うものかもしれません。 僕が住む家の床は塩ビシートタイルやタイルカーペット、畳やラグが敷かれています。家に帰って裸足になると、その硬さや柔らかさ、冷たさや凹凸を感じます。調子の良い時は足はもとより体への意識も薄くなりがちですが、疲れていたり、痛みを持っている時ほど、重力と自分の体、その居る場所を思い知らされます。痛みを感じるよりその前に、今自分が立っている場所に気づくことができたらと最近は思うこともあります。 領域を規定することが分断を生むのだとも痛感させられる今、地続きの水平面を人が共有することの難しさと尊さ、その可能性について、人の居場所をつくることを生業とする僕たち設計者にできることはなんなのだろうと考えています。 湯浅さん、ありがとうございました。 普段靴下やスリッパを履いて当たり前のように生活していると、本来裸足の足から受けるはずの床や地面からの刺激や情報がかなり失われていることに気づかされました。 これからもますますのご活躍をお祈りしております。どうもありがとうございました。 |
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