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建築家コラム 第23回ゲスト 「魚谷 剛紀」 2021年06月1日 一覧へ戻る
 皆さんこんにちは。令和3年も6月になりました。
 緊急事態宣言は9都道府県で6月20日まで延長されることになりましたが、安心して生活できる日々が一日でも早く戻ってくるのを願っております。

 さて、今回で23回目となる建築家コラムのゲストは「 魚谷 剛紀 (うおたに たけのり)」さんです。
魚谷さんは宮本佳明建築設計事務所勤務後、2011年に「Uo.A 」を設立されました。
兵庫県芦屋市を拠点に、建築・インテリアの設計の他にインスタレーションから都市の提案まで幅広く活動されている建築家です。

今回、魚谷さんからどんな「床」にまつわるお話が聞けるのかとても楽しみです。
それでは魚谷さんのコラムをお楽しみください。
 ■建築家コラム 第23回ゲスト 「魚谷 剛紀」 拡大写真 

魚谷剛紀/Uo.A
1979年 富山県生まれ
2001年 愛知工業大学卒業
2003年 同大学大学院修了
2003-10年 宮本佳明建築設計事務所
2011年 Uo.A 設立
現在 大阪市立大学、近畿大学、摂南大学、
大阪工業技術専門学校 非常勤講師
主な受賞
2011年 SDレビュー2011入選
2017年 建築九州賞 奨励賞
2017年 SDレビュー2017入選
2019年 SDレビュー2019入選
2019年 「新泉大津パーキング」設計プロポーザル
最優秀選定
建築における床の意味や意匠について


「床」は、重力がある限り最も長い時間、体の触れる場所であり居場所をつくる重要な要素である。その「床」について考えると、その面の範囲だけが領域を決めていないことに気づく。

例えば、簡易な床として広場にレジャーシートを敷き寛ぐといった時に、シートの面だけが居場所をつくるのではなく、周りの木々との距離や影の落ち方、シート上や周辺の荷物のレイアウトによっても境界は違って感じられる。
そのような「床」が示す領域に注目して、設計したプロジェクトを少し振り返ってみたいと思う。


「デッキプロジェクト」と呼ぶ住宅では、斜面地においての床の置き方(つくり方)で、その状況を編集することを意識した。
斜面での建築では、水平な場所をつくるために擁壁などの土木的処理が求められるが、それは強固に地形と対峙し過ぎているように感じられた。そこで、底盤と土留めとしての擁壁を一体とした「もたれ擁壁」を設け、その上部にデッキのような床を載せた。
 ■建築家コラム 第23回ゲスト 「魚谷 剛紀」 拡大写真 

[デッキプロジェクト/ photo:Kenichi Suzuki]
斜面に水平な床を設けると、その間に余白がうまれる。この住宅では、デッキのような上屋と斜面との間にできる余白を、ベースキャンプのような斜面を利用した活動を広げる場所として建物内に取込んだ。建物同様に斜面にデッキやべンチなどの水平な床をつくり、その下に新たに現れる余白を、物置などの足がかりとして斜面での起点となるように計画した。
床が定規となり、地形を読み解き、断面的にも斜面との関わり方を示すことになる。
 ■建築家コラム 第23回ゲスト 「魚谷 剛紀」 拡大写真 

[立面:斜面に床(デッキ)を置き活動を広げる]
「下石の通い所」では、デイケアセンターとして多数の利用者が様々なプログラムを行う大きなワンルームのような、広いフラットな床を用意した。
 ■建築家コラム 第23回ゲスト 「魚谷 剛紀」 拡大写真 

[下石の通い所 / photo:Kenichi Suzuki]
利用者にとって、人によっては小学校よりも長く通う場所となることから、その広い床の上で、部屋や座席によって決められるのではなく、自らが日々居場所を考えられるような広がりを持たせたいと計画した。
 ■建築家コラム 第23回ゲスト 「魚谷 剛紀」 拡大写真 

[模型:床を外し、壁、天井(梁)の間にできる居場所を見せる]
ひと繋がりではあるが、施設利用者が感じる空間が大きくなり過ぎないように、床の上の壁(柱)や天井(梁)の関係をずらし、緩やかに分節する。さらには、床に落ちる光の移ろいや、景色の変化を感じ、限られた場所でも多くの居場所を探すことができるようになる。床の区切り方や繋げ方をずらしながら、多様な使われ方に応じられる領域をつくっている。

足元の「床」を見つめながらも、新たな関係を探ることで、素材や外形を超えて、「床」が示す範囲をどこまで広く取り込むことができるのか、「床」という言葉が含む大らかな領域について引き続き考えていきたいと思った。


魚谷さん、ありがとうございました。
斜面に建つ家と、フラットな場所のデイケアセンターという対照的な事例で、それぞれの「床」の領域のお話しが分かりやすく、大変興味深かったです。

これからもますますのご活躍をお祈りしております。
どうもありがとうございました。
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