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建築家コラム 第17回ゲスト 「松井亮」 2020年05月25日 一覧へ戻る
こんにちは。
令和2年も6月となりました。
新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言が解除になりましたが、引き続き感染予防を意識して行動することが必要ですね。

さて、今回で17回目となる建築家コラムのゲストは「松井 亮(まついりょう)」さんです。
松井さんは、東京芸術大学大学院修士課程を修了と同時にご自身の設計事務所を設立され、建築設計、商業デザイン、インスタレーションなど、幅広くご活躍されています。

今回、松井さんからはどんな「床」にまつわるお話が聞けるのかとても楽しみです。
それでは松井さんのコラムをお楽しみください。
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松井亮(まつい りょう)
松井亮建築都市設計事務所 代表

1977年滋賀県生まれ。2004年に東京芸術大学大学院修士課程を修了、同年に松井亮建築都市設計事務所を設立。主な作品に、ミラノサローネのインスタレーション「Overture」,東日本大震災で損傷した蔵を改修した集会場「Rebirth House」,羽田空港の飲食店「hitoshinaya」,自由学園の木造校舎「自由学園みらいかん」等がある。
主な受賞、JCDデザインアワード/金賞・銀賞・ 審査員賞(日本),AR House Awards 2015 / Highly Commended・次点(イギリス),CONTRACTWORLD AWARD 2010最優秀賞(ドイツ), Good Design Award(日本),他多数。
www.matsui-architects.com


世界中に広がったパンデミックによる外出規制は、見慣れた公園を歩く足の裏の感覚でさえ新鮮に感じさせる。人が建築の外と中をこんなにも意識をすることはなかっただろう。この期間に、床の意匠と意味について、これまでのプロジェクトから振り返ってみることにした。

砂浜を歩いた記憶は、おそらく足の裏に残るもっとも滑らかな感触のひとつだろう。もう10年も前になるが、ミラノサローネのインスタレーション、東芝による展示「OVERTURE」にて会場構成を手掛けた。ライブラリーに併設された120平米程の少し入り組んだ空間に、水の入った電球型のガラス製オブジェが吊るされた。Takramによって考案されたオブジェは、人が近づくと光が点灯し、触れると手のひらに鼓動を感じることができる。繊細な体験へと没入させるための空間を考案する必要があった。アーチ型のミラーで会場を囲み、結節点が反復する無限回廊のような空間を提案した。床の素材は現地で手に入り、短期間に施工ができなければならない。そこで、大理石を砕いた砂を敷くことにした。継ぎ目のない有機的な床は鏡の反復を和らげ、波紋のように揺らめく光が凹凸のある砂を照らす。ライブラリーを抜けると建築の内部では体験しないはずの感触が足の裏に伝わる。人は自然と歩幅が狭くなり、ゆっくりと歩き出し、光と向き合う視覚が研ぎ澄まされる。建築の中の砂浜は、人と光の関係を深める床として十分な役割を果たした。床が体験の質を変えることを改めて教えてくれた。
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OVERTURE | Photo: Daici Ano
自由学園の新しい木造校舎を設計する機会に恵まれた。明日館に込められたフランク・ロイド・ライトの思想が継承されたキャンパスは広大で自然に溢れている。自由学園は教育の一環としてヒノキ・スギの植林を行っており、生徒たちの手で枝打ちや間伐などの活動が引き継がれてきた。思いの込められた植林地の木から校舎を作ることを試みた。何度も植林地に足を運び、伐採・製材・加工まで綿密な計画を実行した。伐採した木を仕分けし、構造材、仕上材、家具材などに利用する部材のサイズを設計しながら木取りを進めた。床となる木は、直径18-20pの丸太。幅90mm・長さ2850pの床材に製材した。1本の丸太から製材すると節のある部材と節のない部材が生産される。しかし、木には節があるのが普通だ。生徒たちによる枝打ちの甲斐あって折れた枝によってできる死節(しにぶし)は少なく、美しい生節(いきぶし)ばかりであった。節のある部材を1階に集約させてその表情を楽しむ床とし、節のない部材は線的な要素の多い2階に使うことで意匠的な均衡を整えた。伐採する木を決め、製材しながら床の意匠を考えるプロセスは、建築をつくることの深い意味を知る経験となった。
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自由学園みらいかん | Photo: Daici Ano
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植林地のある三重県海山、伐採した木の仕分け前の状態
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自由学園みらいかん 2階プレイルーム | Photo: Daici Ano

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自由学園みらいかん 1階ホール| Photo: Daici Ano
床は建築の部材の中で最も触れている時間が長い。今踏みしめている床は、何を意味しているのか。建築が完成した後に、その床の意味を問われるだろう。人の記憶に刻まれる床をこれからも思考していければと思う。



松井さん、ありがとうございました。
ミラノサローネのインスタレーションと自由学園の木造校舎建築のお話しは、それぞれ使う材料の制約があるなかでの深い思考の過程が伝わってきました。
弊社もフローリングをはじめとした様々な建材を販売しておりますが、素材の活かし方、使い方の点で非常に勉強になりました。

これからもますますのご活躍をお祈りしております。
どうもありがとうございました。
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