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建築家コラム 第4回ゲスト「川添 善行]様 2018年04月25日 一覧へ戻る
新緑がまぶしい季節になりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?

さて、建築家コラム第4回のゲストは「変なホテル」の設計で有名な「川添善行」さんです。

32歳という異例の若さで東京大学にご自身の研究室(建築意匠)を持ち、現在東京大学川添研究室を主宰されています。

建築における床の意味や意匠について、どのようなお話が聞けるのか楽しみです。
それでは川添さんの「建築家コラム」をお楽しみください。

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川添 善行(かわぞえ よしゆき)
建築家、東京大学准教授。

経歴
1979年神奈川県生まれ。東京大学卒業、オランダ留学後、博士号取得。株式会社空間構想にて設計アドバイザー。
「変なホテル」、「東京大学総合図書館別館」など建築を設計すると同時に、「空間にこめられた意思をたどる」(幻冬舎)、「このまちに生きる」(彰国社)などの著作もある。
日本建築学会作品選集新人賞、グッドデザイン未来づくりデザイン賞、ロヘリオ・サルモナ・南米建築賞名誉賞などを受賞し、日蘭建築文化協会会長などの要職を務める。




床は、いつも難しいなと思います。

建築の内装はよく、床・壁・天井と言われますが、この3つのエレメントの中で、床は本当に難しい。床にはいつも人がのっていますし、重いものや尖ったものが通ったりすることもあるので、一定の強度が必要になります。例えば、日本の障子は柔らかい紙の特性を使った美しい発明ですが、そうした柔らかな素材は床では採用できません。しかも、すべての建物には床がありますから、それらをすべて足し合わせれば、とてつもなく広い面積になるわけで、手に入りやすい素材であることも必要な条件です。

ひょんなことから、国際協力機構のプロジェクトで、インドで大学の設計をしています。ハイデラバードというデカン高原に位置する都市でのプロジェクトなのですが、現地では床に石を使うことが一般的です。外構だけでなく、内部空間も。日本の感覚ではフローリングになるようなところも、躊躇なく石がはられています。逆に、大きな樹木が育ちにくい現地では、良質のフローリングはなかなか手に入りません。今は慣れましたが、当時は、あらゆる空間の床に石が使われる状況に、なんだか調子が狂う気がしたものです。そういう経験をしていると、床というのは極めて機能的であると同時に、極めてローカルな素材なのだと思うようになりました。だから、広い世界からいまの足元の床を見つめ直すと、その床が持つ地域性や時代性が見えてくるような気がしています。

壁や天井は、その形態などによって目線との関係をコントロールすることができます。天井の高さを変えるだけで、目線と天井との距離が変化し、壁のプロポーションも変化します。人の居場所が変われば、壁との距離が変わり、見え方が変わります。けれでも、床に関しては、いつも1mから2mほどの距離から見続けています。どこに行っても、どんな空間でも、目と床の距離は変わりません。機能性や地域性に影響されるため、ただでさえ選択肢が少ない床という素材を、いつも同じ距離から眺めているわけです。だから、床は難しい。これまでも多くの建築家が、その難問に挑戦してきました。硬いものであれば、分割の仕方を変えてみる。異なる素材を組み合わせてみる。段差をつくってみる。仕上げ方を変えてみる。床には、多くの建築家の格闘の痕跡が見え隠れしています。

この床にまつわる難問、あるプロジェクトで私なりの解決方法を見つけました。それは、水です。今から10年ほど前、南米のコロンビアに図書館を設計しました。メディジンという都市のベレン公園図書館です。内藤廣さん、中井祐さん、当時の学生たちと一緒に設計しました。当時のメディジンは治安も悪く、社会的な問題が多く存在していました。当時の市長の声かけにより、貧困層の多く住む地域にあった刑務所の敷地に新しい図書館を作ることで、地域再生のきっかけにしようというものです。私が担当者として現地に行く際には、いつもマシンガンを持った護衛が同行する、という状況でした。だからこそ、図書館に求められるのは、豪華な建物ではなく、市民が自分の場所として集まれる空間なのだと考えました。プロジェクトの中心は建物ではなく、およそ30m角の水盤です。この水盤の周囲に、図書館や音楽ホール、展示室など様々な機能が配置されていて、この図書館を訪れた人は、この水盤の周りにそれとなく集まります。水は、色々なかたちになり、色々な表情を見せてくれます。その人の気持ちや喜び、悩み。風の状況、太陽の位置。水の表情は、常に移り変わり、気がつけば長い時間、水を眺めていることもあります。

オープン後、この図書館には毎日多くの人が訪れてくれました。人が集まり、互いの顔が見えるようになったことで、この地域の治安も急激に改善したとのこと。そうした取り組みが評価され、後年、ロヘリオ・サルモナ南米建築賞名誉賞をいただきました。言わずもがな、ロヘリオ・サルモナは、南米を代表する大建築家ですが、この賞は、建物そのものではなく、オープンスペースのあり方を選考基準にするという、極めて珍しい賞です。そして、この賞のあり方は、ロヘリオ・サルモナが目指した建築のあり方をよく伝えるものだと思いますし、ベレン公園図書館の価値をよくあらわしていると思います。

床としての水は、その後の私のテーマの一つとなっています。先日完成した東京大学総合図書館別館では、およそ100年前の噴水を修復し、広場に復元しただけでなく、その水盤を通した光がゆらめきながら地下に降り注ぎ、新しい図書館にふさわしい空間となりました。この図書館でも、毎日多くの東大生が勉学に励んでいます。また、現在、ある都市で設計している駅前広場でも、美しい水盤を作り出そうと奮闘しています。人に近いからこそ、人の気持ちに寄り添えるような床がつくれればと思っています。


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ハイデラバードには、このような露天の石材店がたくさんあり、色々な種類を選ぶことができる。
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このトイレを見たとき、石造文化の奥深さに衝撃を受けた。
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ベレン公園図書館の中心に位置する水盤。様々なものを映しこむ。
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いつかこの水の風景が、新しい世代の原風景となればと願っている。




川添さん、常に1〜2mの距離感で目に飛び込んでくる床は、壁や天井と最も意味や意匠性が異なることがよくわかりました。
ベレン公園図書館がメディジンの治安を改善させたお話は、まさに建築が持つ力を感じます。
今後ますます世界をよりよい方向に導いていくような作品を楽しみにしています。
素敵なコラム、ありがとうございました。

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