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建築家コラム 第3回ゲスト「田邉 雄之」様 2018年01月29日 一覧へ戻る
2か月ぶりの建築家コラム 
今回のゲストは株式会社田邉雄之建築設計事務所代表を務める「田邉雄之」さんです。

建築における床の意味や意匠について、田邉さんが幼い時からのとても興味深いお話が聞けそうです。

それでは皆さま、田邉さんのコラムをお愉しみください。
 ■建築家コラム 第3回ゲスト「田邉 雄之」様 拡大写真 

田邉 雄之(たなべ ゆうじ)
建築家 株式会社田邉雄之建築設計事務所代表取締役

経歴
1975. 神奈川県鎌倉市生まれ
1998. 明治学院大学文学部フランス文学科卒業
2000. ICS卒業
2004. 芝浦工業大学大学院工学研究科建設工学専攻修了
2000-2006. bews / building environment workshop勤務
2006-2007. 文化庁新進芸術家留学制度にてFOA / Foreign Office Architects (London)で研修
2007-2008. FOA / Foreign Office Architects (London)勤務
2008-. YAA / Yuji And Architects ユウジアンドアーキテクツ設立
2014-. ICS非常勤講師
2016-. 芝浦工業大学非常勤講師
2016-. 株式会社田邉雄之建築設計事務所に改称

受賞
住宅建築賞/東京建築士会、AR House Award 2014奨励賞、グッドデザイン賞中小企業庁長官特別賞、
神奈川建築コンクール優秀賞、藤森照信x伊東豊雄両氏が選ぶ「住宅セレクションvo.1」入選、
Arup Prize for emerging talent in architecture/Royal Academy of Arts、軽井沢緑の景観賞、
JCD国際デザインコンペティション金賞など受賞多数。

素足→スリッパ→素足
日本の住宅の床材においてメインストリームがあるとするならば、私はその変遷の一部を体感してきたのかもしれない。昭和50年生まれの私が子供の頃は、いわゆる一般住宅においてフローリングの床というものはまだまだ少なかった。私が10歳まで暮らした家は、鎌倉の5階建てのマンションで60uほどの田の字プラン、4部屋のうち2つが絨毯(カーペット)の洋室、もう2つが畳の和室だった。そんな和室の畳の上に絨毯を敷くというのが、我が家はもちろん親戚の家でも友人の家でも散見できた。当時は引越しや模様替えのたびに近所のインテリアショップに赴き、軒先や店内に筒状に立掛けられた四畳半用、六畳用と大きさによって分けられた絨毯を色やさわり心地を試しながら選んだものだった。畳のモジュールにピタリと嵌るその絨毯を敷くと、それまでの和室感100%が60%くらいに低下し、旅行の際に訪れたホテルやブラウン管の中の理想の文化に少し近づいたようで大いに喜んだものである。素足や手から感じる絨毯の触感は気持ちが良く、また床座に慣れた日本人の生活にもたいへん馴染んでいた。しかしそんな絨毯は、資料によると衛生面等の理由から昭和50年代後半の約70%の普及率をピークに下降し、いわゆるフローリングの床に取って代わっていった(現在ではフローリングの普及率が約70%)。
普及し始めのフローリングは、衛生面に優れた表面がツルツルピカピカのものが主流であった。学校の体育館を思わせるあのツルツルピカピカが、天井の低い日本の住宅において適合することはなかなか難しいようで、私自身は違和感を覚えていたものである。そしてその光沢を生みだす樹種や仕上げの硬さや冷たさを軽減させるために、明治初期に西洋人が土足で板の間にあがることへの対処法として生みだされたとされる、いわゆる日本式のスリッパが再び必須となっていった。

さて、20年ほど前に学校を卒業し自らが設計するようになり、床材にはモルタルやタイルなども用いたが、やはり住宅においてはフローリングを採用することが多かった。3年前に長野県松本に竣工したペッタンコハウスは、工芸家である施主と製材所との協働作業で木取り*1から考えた地元カラマツのフローリングを採用した。この住宅は外壁や柱・梁といった構造材も地元のカラマツを採用することで、地産地消も大きなテーマとなっていた。そのため伐採したカラマツの木は、なるべく廃材や燃料用のチップ等にする部分を減らし、製材として利用したいという思いが募った。そこで時間的な合理性は若干無視し、木取りを工夫することによって歩留り率*2を高めることをおこなった。すると写真のように幅の異なる床材にすることが理想的な木取りとなり、最終的には4種類の異なる幅を採用することとなった。その異なる床材の幅は通常の均質な幅とは違い、どこかラフでリズミカルな印象を空間全体に与えてくれた。仕上げに関しては製材時の鋸跡が残る『ラフソーン』+木目が浮かび上がる『浮づくり』とした。これらの仕上げによって生まれた微細な凹凸は素足にたいへん気持ちが良い。さらに触感は変わらない浸透性の木保護塗装を施したことで、3年経過した今でも美しさを保っている。
毛足が素足に気持ちが良かった絨毯、清潔感のあるツルツルピカピカのフローリング(要スリッパ)を経て、もう一度素足の触感を刺激する床材に出会えたところである。テクノロジーやライフスタイルの変化によって今後も更に新しく、心地の良い床材が生まれてくるのが楽しみである。


*1木取り:丸太から角材や板材などを製材すること。切る位置や方向、順番を検討することも含む。
*2歩留り率:丸太からつくりだす製材の割合。率が高いほど端材が少ないということ。
 ■建築家コラム 第3回ゲスト「田邉 雄之」様 拡大写真 

歩留まり率を高めた木取り。幅の異なる4種類の床材、外壁、構造材、胴縁を効率よく製材する




 ■建築家コラム 第3回ゲスト「田邉 雄之」様 拡大写真 

あらわしとなっている柱・梁も地元のカラマツ。床材と樹種及び産地が同じため、一体感がうまれる

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素足に気持ちが良い、異なる幅の地元カラマツのフローリング

 ■建築家コラム 第3回ゲスト「田邉 雄之」様 拡大写真 

外壁も地元カラマツ材による「ペッタンコハウス」






田邉さん、住宅における床材の変遷といった身近な話題から専門的な木取りの情報まで、
楽しくてためになるコラム、ありがとうございました!
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